ベトナムの集会所と呼ばれる ディン(Đình)とは何か

1736年建立ディンバン亭

ベトナムでは、寺院に見える建物が何種類かあります。
仏教寺院はチュア=Chùa 、廟=Miếuや殿=Đềnは外来の神様(媽祖や関羽)や死者(王や皇帝)を神として祀る寺院です。
そして、ディン=Đìnhと呼ばれる建物があります。
これも一見寺院に見える建築ですが、日本語では集会所と訳される事が多いです。

集会所としてのディン


集会所と言われるとなんとなく、公民館のようなものを想像してしまいます。
ある方が「寄合所」と書かれていて、こちらの訳の方がイメージが近いです。
さらに話を飛躍させると、ディンは日本の神社に近い役割をもっています。

実際にディンで何が行われていたのか。
ベトナムが村落社会であったことがご存知の方は多いと思います。
村において、村人たちが集まって話し合う場所、そして祭事を行う場所でもありました。
例えば、村人同士で問題を起こした場合の裁判所として、村長と村人たちが集まってヤンヤヤンヤやっていたのがディンの敷地内の広場です。

ディンで行わる祭事

ディンは、現代でも街を注意深く観察すれば見つけることができます。
建物は小さく、敷地は広いので建物の中に入って話し合うというよりも、敷地に人々が集まってくる場所でした。
そして、ディンは土着の神などを祀る場所でもあります。
日本でいえば、地域にある氏神様を祀る、地元の神社のような機能に近いと思われます。

下は2012年に建られたばかりの比較的新しいディンです。狛犬もいるあたり日本の神社のようです。


東屋からはじまるディン(亭)

ディンは確かに集会所という場所ではありますが、地元の神様が祀られていたり、祭事がおこなわれていたり、たんなる「集会所」という言葉には収まらない重要な機能をもった建築です。

実際には、ベトナム語を漢字に当てた(チュノム)通り「ディン=亭」でよいのではないか、と筆者は考えます。

では、ディン(亭)とは何か。

現代のベトナムでも、富豪の家の敷地内には八角形の屋根の小屋を建てることがあります。日本語では東屋と呼びますが、ディン(亭)がこれに当たります。

カフェ庭園内の東屋=亭(ニャットアンコーヒー

本来「亭」は広い敷地の寺院内に、休憩所として建てられた屋根付きの小屋です。
屋根付きで風の通る涼しいディン(亭)では、自然と人が集まり話し合う場所となります。
この東家のような休憩所は日本や中国にもありますが、ベトナムでは時代を経るごとに、ディン(亭)がただの休憩所ではなくなります。


バクニン省にあるThủy Đình(水亭)では、高官が水上人形劇を楽しんだそうです。
この水亭はインドシナ銀行が発行した5ドン紙幣に印刷されたこともあります。ここでは毎年リータイトーの戴冠を祝う祭事を行う場所にもなります。
こうしてディン(亭)は、ただの休憩所から王たちの祭事の場となりました。

しかし、15世紀以降は違う形でディン(亭)はベトナムの村へ広まって行きます。

村落共同体におけるディン

上記の図は、ベトナムの伝統的村落共同体の配置図です。(引用:物語 ヴェトナムの歴史

ディン(亭)は、村の中心に置かれています。仏寺は村の端にありますね。
村落の人々にとってディン(亭)がいかに重要であったか、ということがわかります。
これは、ディン(亭)は村人たちが集まり祭事を行う場所でありましたが、それとともに皇帝と村人たちをつなぐ場、特に儒教が広がりだしてからは、皇帝の意を伝える場としても機能します。
15世紀以降儒教による中央集権が強くなり、上級官庁との連絡にあたったのが長老評議会でした。もちろんディン(亭)は長老評議会の管理化に置かれました。

ディン(亭)は、ここまでみてきたように現代まで受け継がれてきたベトナム独自の役割を持つ、集会所以上の建物となったのです。

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